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◆ ETASモデル(地震活動度解析の"拡大連動型余震モデル")

大きな地震の直後から地震が連鎖して発生しますが、古来このような地震群を余震と呼び、きっかけになった地震を本震と呼びます。一つの地震が他の地震の引き金となるのです。大きな地震は多くの地震の引き金となり、小さい地震でもそれなりの確率で他の地震の引き金になります。

 

極端に、今の地震は過去に起きた全ての地震によって誘発されたと考えることができるとします。もちろん最近の大きな地震ほど大きな引き金となり、昔の小さな地震ほど小さな引き金になると考えます。これは、考えている地域がそれほど大きくない場合を想定していますが、もし地域が大きければ、最近近くで起きた大きな地震ほど大きな引き金と考え、昔に遠くで起きた小さな地震ほど小さな引き金と考えます。そう考えると、地震は普段から数多く起きていますが、それらの発生の仕方は全く無秩序ではなく、法則性があることになります。全ての過去の地震の影響で今の地震が起きたと考えられます。

 

こう考えると、様々な地震活動をうまく説明できることがわかってきました。この説明のために使われる具体的なモデルはETASと呼ばれています。ETASは、いかなる地震も多かれ少なかれ付随する地震活動を持ち、今の地震は過去の地震に付随して発生した地震の一つという考えに基づいたモデルです。ETASは統計数理研究所の尾形良彦先生が提案したもので、地震学では数少ない日本発のモデルの一つです*]

 

ETASモデルは、Epidemic-Type Aftershock Sequenceの略で(地震活動度解析の)”拡大連動型余震モデル”とも言えます。

 

ETASを使う利点は、地震活動の各地域の特徴や相場を再現できることで、これを「ものさし」として使い、地震活動の異常変化(相対的な静穏化など相場の活動からの乖離)を検出できることです。一般に、異常がみられてもその後必ずしも大地震が起こるとは限りませんが、その起きる確率が通常より高くなっていることも計算できます。

 

また、過去の地震活動にETASを当てはめ、過去の地震の起きかたも将来の起きかたと同じと考えて、将来の地震活動を予測することにも使えます。ETASは地震本部の余震活動の評価手法に取り入れられているほか、米カリフォルニア州の次世代の短期的予報モデルに採用されおり、地震活動の標準モデルとして国際的に受け入れられています。(KN記 2020Dec)

​*)「参考」ETAS モデルによる余震の確率予測

        東京大学生産技術研究所 統計数理研究所 (近江崇宏,尾形良彦,平田祥人, 合原一幸)

  • 2024年1月1日能登半島地震でのETASモデル余震解析

2024年2月5日時点:複数の研究機関で能登半島地震の余震を解析したところ、震央の西側の領域で、明らかに期 待される余震数より、余震発生が減っている事がわかりました。これは、余震活動の相対的静穏化と呼ばれる現象で、かなり大きな余震が発生する前兆的な変動と 考えられます。復旧が軌道に乗りつつあるこの段階で、大きな余震が発生する事は復旧にも大きな影響 を与える可能性が大きく、憂慮される事態です。震央の西側(つまり 能登半島)で明らかに余震発生が理論値よりすくないのです。ちなみに想定される最大余震はマグニチュード6.5前後と推察されます。

右の図が現在能登半島で起きてい る事です。ETAS モデルによる余震発 生数の予測カーブ(赤点線)より、1月 8日ごろから明らかに下方にズレが生 じています(理論的に発生が予想され る余震より有意に数が少ない)。つまり DuMA が予測に用いている地震活動 静穏化が ETAS モデルによる解析でも 発生しているのです(相対的静穏化)。(2024.2.5 NLより)

  • 2024年8月8日日向灘地震でのETASモデル余震解析

8月8日から8月29日までの九州地方で発生した地震(マグニチュード1.0以上)です。図から1,412個の地震が発生しています。

日向灘沖の地震活動に ETAS モデルを適用してみます。下図左側が8月15日までの地震データでフィッ ティングを行ったもの、下図右側が8月20日までの地震でフィッティングを行ったものです。左側では、実際 の地震発生数が不足しています。また右側では全体としてフィッティングがうまくいっていません(赤線と 黒線が微妙にずれている)。

次の図は8月12日までの地震データでフィッティングしたものですが、8日から12日まではかなりうまく
フィッティングできています。どうやら12日以降に余震発生のパターンが変化したというのが現時点でもっとも適した解釈かもしれません。つまり現在は理論より地震発生数が少ないという状況で、“相対的静穏化”という現象が発生していると解釈できます。

現時点(2024/09/02)の解釈として、相対的静穏化を解消するために、マグニチュード6クラスの地震が今後数ヶ月以内に発生する可能性があると考えます。ただ、8月8日と同じようなマグニチュード7に達するような地震
の発生は考えづらい状況です。しかし台風10号により、地盤はかなりの水分を含んでおり、少しの揺れでも土砂崩れをはじめとする斜面災害の発生には十分注意が必要な状況と思われます。(2024.9.2 NLより)

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